「乳酸菌は生きて腸に届かないと意味が無い」と思っていませんか?
「生きて腸まで届く!」というキャッチフレーズはあなたも聞いたことがあると思いますが、それだけを聞くと死んでしまった菌には全く使い道がないように思えてしまいます。
物事はそこまでシンプルではありません。また生菌に関しては大きな誤解が世間に広まっています。
ヨーグルトだけではなく、青汁でも「生きて腸まで届く」ことを宣伝している製品が多数存在します。
そこで生菌と死菌の違いと、あなたが知らない乳酸菌の真実について簡単に説明します。
Contents
乳酸菌飲料などで摂った菌は人の体にとって異物

生菌とはその名の通り、生きている菌です。
ただし生菌を摂ったとしても、それら全てが生きたまま大腸などに届くというわけではありません。
人間の胃酸や胆汁酸はとても強力で、生きた状態の乳酸菌を摂り入れてもそれらで殺菌されてしまうので、ほとんどは腸に届く前に死滅してしまいます。
ある意味当たり前ですね。乳酸菌が人の体にとって有益だからと言って、外部から取り入れる菌は体内では異物として扱われます。
あなたの体はそのような外部菌が生きた状態で体の奥底に入ってしまうのを殺菌という方法で防止しているのです。
実際に異物と触れる可能性の高い小腸には免疫細胞全体の約60%が集結しています。

その免疫細胞には以下のような白血球が生息しており、侵入者の監視をしています。
- 樹状細胞:異物を自分の中に取り込み、他の免疫細胞に伝える
- 好中球:異物を食べて殺菌(前線で戦う)
- マクロファージ:異物を食べて殺菌(死んだ細胞も含む)
つまり「怪しい奴は早い段階で退治してしまえ」という考えです。
【重要】生菌にまつわる2つの大きな誤解
「胃酸などに耐えて生き残った乳酸菌は最終的に人の体内に住み着く」と思っていますか?
この考えも正しくはありません。世間で信じられている大きな誤解は以下のふたつです。
- 生菌入りの乳酸菌飲料を飲むと大腸内の乳酸菌が増加する
- 生菌は死菌より新鮮であり健康に良い
これらは両方とも神話の類の話です。
ひとつずつ説明していきます。
誤解1:乳酸菌飲料で大腸内の乳酸菌が増加
一般的に生菌には以下のような働きがあると宣伝されます。
- 腸内を弱酸性にして悪玉菌が住みにくい環境を作る
- 腸のぜん動(伸縮)運動を促すことにより排便を助ける
これらの働きはについてはその通りです。ただし「ヨーグルトなどで摂った生菌は大腸に届く前に、ほぼ全て死菌となる」という前提条件があります。
つまり以上で述べた「生菌の働き」として宣伝されるその「生菌」とはあなたの腸内にすでに住み着いている菌のことであり、乳酸菌飲料などで外部から取り込む菌ではないのです。
またヨーグルトなどに含まれる乳酸菌が生きた状態で大腸までたどり着くことができたとしても、その場に定住することはまずありません。
仮に胃酸に耐えて小腸に届いてもそこには好中球やマクロファージのように外来菌を殺す免疫細胞が多数存在するので、多くはそこで死滅してしまいます。
その過程を経てようやく大腸に届いたとしてもすでにヘトヘトの状態で、そこに住み着いているビフィズス菌などと生存競争をしても勝てる可能性はほぼゼロです。
- 「生きて腸に届いて善玉菌として増える!」というのはファンタジーであり現実ではない
ここで世間の人たちが抱いているイメージに焦点を当てます。

一般の風潮は「生菌入りの飲料を飲むと大腸内の乳酸菌が増加する!」というものです。
異論はありませんね?
生菌が増殖するという話自体は事実です。それはヨーグルトなどに含まれる乳酸菌でも同様です。
そしてそれら菌は最終的に便の中に含まれる形でトイレで排出されます。
つまり「乳酸菌が体内で増加する」という話が事実であれば、以下の方程式が成り立つはずです。

ただし未だかつてそのような論文はひとつも発表されていません。
過去においてはその仮説を立証すべく人糞をかき集めて乳酸菌の数を調べるということも行っていたそうですが、結局増加したという例はひとつも報告されないまま現在にいたっています。
あなたが摂った生菌は大腸に届くころにはほぼ死菌になっており、増殖能力などないのです。
誤解2:生菌は死菌より新鮮で健康に良い
乳酸菌は常に増殖を繰り返しながら死滅していきます。
これは「生菌入りのヨーグルトは賞味期限が近い物のほうが乳酸菌(生菌+死菌)の数が多い」ということを意味します。
これは本当の話です。

実際にヨーグルトは賞味期限が近くなると酸味が増しますが、これは乳酸菌の数が増加しているからです。
「生菌は死菌より新鮮で健康に良い」というのがなぜ誤解かと言うと、結局のところあなたの体内で生菌は免疫細胞により殺菌され死菌に変化するからです。
よって生きているか死んでいるかという状態ではなく、その菌の数が重要となります。
結果として健康に対するメリットを相対的に評価すると以下のようになります。
- 購入したての新鮮なヨーグルト:乳酸菌の数が少ない(健康効果小)
- 賞味期限が迫ったヨーグルト:乳酸菌が数が多い(健康効果大)
※あくまでも相対評価であり、新鮮なヨーグルトにも大きな健康効果があります
なぜ菌数が重要かと言うと、それが腸内善玉菌のエサになるなどして免疫力の向上に働くからです。
それが次のお話です。
死菌にも健康へのメリットがある
※ここで言う「死菌」とは乳酸菌飲料などに含まれる死菌と、あなたの体内で死んでしまった菌両方を指します
「死んだ菌に役割なんてあるのか?」と思わないでください。
死んだ状態でも健康へのメリットはあります。簡単に述べると死菌は腸内善玉菌のエサとなったり、その過程で免疫力を高める働きがあります。
死菌はエサとなることにより善玉菌をサポートします。ちなみにこの善玉菌はあなたの体内に住み着いている生菌のことです。
生菌を売りにしている乳酸菌飲料や発酵乳(ヨーグルト)には生菌しか入ってないと勘違いしている人たちがいますが、実際には少なくとも死菌が生菌の5倍以上は含まれています。
また乳酸菌は生きている死んでいるなどの状態に関わらず、体の免疫力を向上してくれるというありがたい働きがあります。
生菌も死菌も食事で外から取り入れる以上外来菌であることに変わりはありません。よって小腸内でマクロファージのような免疫細胞に侵入者として判断され捕食されます。
そしてその過程で免疫スイッチが入るのです。

つまり「変なものが入ってきたぞ!」とまわりに警告が発せられるんですね。
これにより体の免疫細胞の活動が活発化しますが、これが免疫力の向上につながるのです。結果として風邪を引きにくくなるなど、丈夫で健康的な身体が出来上がります。
- 生菌や死菌は腸内善玉菌のエサとなる
- 生菌や死菌は免疫細胞を刺激し体の免疫力を向上させる
まとめ
生菌と死菌の免疫力向上作用は基本的に同じで、近年では乳酸菌飲料を販売する大手メーカーや学会でも両細菌の免疫効果は同じであるという論文を出すようになりました。
ちなみに生菌は死菌と比べ生成コストが高いので、「腸内環境を改善したいのであれば死菌で十分である」と述べる研究者も大勢います。
そのようなことは数十年前から専門家の間では理解されていたことです。
結局のところメーカー側が商品を売りたいがために利用した「生きて腸まで届く」というセールスポイントが、あたかも「生きて届いた方が効果が高い」というような非科学的な話を世間に広めてしまったというのが真実です。
「生きて腸まで届く」というキャッチフレーズは、単なるうたい文句として捉えるのがいいでしょう。